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民族楽器や伝統舞踊・音楽

さまざまな苦難の歴史や複雑な道のりを経て独立を実現させたモルドバでは、楽器や音楽、舞踊にも昔からの伝統が色濃く残っています。民族のアイデンティティーを象徴するような音色や踊りは古くから引き継がれ、そのまま現在に至っています。中でも世界最古の楽器といわれる「パンフルート」や伝統舞踊「ホラ」は、モルドバを代表する貴重な古代遺産として存在感を放っています。

民族楽器パンフルート

「パンパイプ」とも呼ばれる「パンフルート」は、モルドバやルーマニアでは「ナイ」という名称でも知られています。木管楽器の一種で、一端が閉じられた長さや太さの異なる数本の管をそろえて長い順に横並びに束ねた縦笛です。その起源はとても古く、ギリシャ神話に名前の由来を持つ世界最古の楽器ともいわれているのです。

パンフルートの「パン」はギリシャ神話に登場する牧神パンの名前からとられています。パンが失恋し心が傷ついていた時、水辺に生えていた筒状の草の「葦」を吹き鳴らし、その音色で自分の心を慰めたとの伝説があります。現在は葦だけでなく竹や木でも作られていて、唇を当てて吹き鳴らすというシンプルな演奏方法ですが、その独特な音色はとても神秘的で人々の心を癒す力を持っています。

日本の歴史上ではシルクロードを通じ、奈良時代に入ってきたとされています。排簫(はいしょう)という名称で正倉院にも納められていて、排簫を演奏する楽人が描かれた絵も飾られているそうです。

もともとモルドバでは民族楽器として演奏されていましたが、1970年代にルーマニア出身の演奏家ゲオルゲ・ザンフィル氏の演奏が話題となり、世界中にパンフルートの演奏家や愛好者が増えました。巨匠といわれているザンフィル氏の後継者も何人か現れ、近年は世界のさまざまな国でパンフルートのコンサートが開かれています。

日本ではプロの演奏家が少ないことや一般の楽器店では販売されていないことから、知名度はまだ低いものの、近年はインターネットの普及によって情報の収集や交換が可能に。オンラインコンサートの視聴もできるようになり、日本でも着実にパンフルートの愛好者が増えています。

2019年にはルーマニア大使館が公認した「日本ルーマニアパンフルート協会」が設立され、巨匠ゲオルゲ・ザンフィル氏が名誉会長に就任。東京音楽大学付属民族音楽研究所などでパンフルート講座が開講されています。日本のモルドバ大使館で開かれるイベントでもパンフルートの演奏が行われるなど、モルドバやルーマニアの人たちにとってパンフルートは懐かしい“魂の楽器”のようです。

伝統舞踊や音楽

モルドバの伝統的な民族舞踊としては、「ホラ」が挙げられます。バルカン半島地域由来の輪舞の一種で、「ホロ」や「オロ」などの名称でも知られています。

フォークダンスのように手をつなぎ円周上を回るようにテンポよくステップを踏みながら踊るもので、地域の結婚式やお祭りでは娯楽としても根強い人気があります。結婚式では、新郎新婦が参列者とともにアクティブな踊りを披露。パンフルートをはじめ、アコーディオンやバイオリン、サクソフォーンなどの楽器が伴奏して盛り上げます。

もともとモルドバは、路上でオーケストラが演奏したり、伝統舞踏を踊ったりすることが盛んな国です。モルドバで「ホラ」が絶対的な存在感を放つのは、ソビエト連邦からの独立を祝う8月27日の独立記念日。この日のお祝いは首都キシナウを中心に毎年盛大に祝われ、学校をはじめ多くの企業や商店が休みとなります。市内の歴史的モニュメントに献花が行われ、大統領が国民に向けて演説した後、国民議会広場で盛大なパレードを開催。広場にはモルドバの民族衣装「イエ」を纏った人たちが集まり、大規模な「ホラ」が披露されるのです。

また、モルドバには「JOC(ジョック)」という国立アカデミックフォークダンスグループがあります。グループ名はラテン語で「喜び」や「楽しさ」「踊り」などを意味し、春の訪れを喜ぶ3月の「マルチショールの祝い」には、「JOC」を観るために多くの国民が国立宮殿に集います。ここではホラをはじめ、さまざまな民俗舞踊が披露されます。
付け加えると、2004年に世界中で大ヒットした「恋のマイアヒ」を歌ったO-Zoneもモルドバのダンスポップアップグループ。「恋のマイアヒ」に限らず、モルドバでは踊りに合うようなアップテンポでノリがよい曲が好まれているようです。

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