世界各地のさまざまな文明や文化が受け継がれてきたモルドバでは、多種多様な遺跡や考古学残存物が見られます。また、民族衣装などの伝統装飾も盛んで、刺しゅうを施した国内各地の衣装には目を見張るような芸術的価値があります。首都キシナウに設置された由緒ある博物館や美術館には、こういったさまざまな考古物や民族衣装、絵画などが展示されています。中でも見ごたえのある国立の3つの博物館・美術館を紹介しましよう。
国立民族歴史博物館
一見するとモスクのような外観の入り口を有する国立民族歴史博物館は、1889年に設立されたモルドバで最も古い博物館です。もともとは農業博物館でしたが、その後徐々に分野を拡大し、自然史や伝統文化、人間社会の進化などを反映した遺産を収集。現在は約13万5,000点を収蔵しています。
館内には自然と文化の研究を2大テーマとした常設展示スペースと、一時期だけの特別展示スペースがあります。一番目立つ展示ホールには、博物館で最も貴重な遺産の1つである、モルドバ領土に生息していた角竜類の一種とみられるデイノセリウムの完全な骨格標本が飾られています。ホール周囲の空間には、この巨大なデイノセリウムと同棲していた中新世の化石動植物の多様性を示すサンプルを展示しています。
そのほか、化石や地球の地質学的歴史の中で最も古い段階を解説した「古生代コーナー」や、自然の多様性、豊かさ、美しさを提示した「自然の風景コーナー」、地球の生物圏の進化をイメージした「生物圏コーナー」、布地やカーペット、民俗衣装、儀式品など家族の生活や重要なイベントを紹介する「グレートハウスコーナー」など、さまざまな展示があります。中でも刺しゅうを施した民族衣装やタペストリーといった手仕事の作品は、実に見事といえるでしょう。
この地域では初めてという20世紀初頭につくられた植物園も博物館の一部になっていて、森林や草原、放牧地、水生で育つ主要品種の植物を展示。国家が保護する自然種リストに含まれる木々や、建築モニュメントリストに含まれる1889年に建てられた木製のあずまやと噴水も配置されています。
博物館では民間伝承イベントをはじめ、国内および国際的なコンテストやフェスティバルを定期的に開催。国内全地域から集まった作品の中で優秀なものは、ヨーロッパ、アジア、アメリカ、アフリカなど多くの国で開催されるさまざまな展覧会でも展示されます。また、毎年開催される民芸師の手芸展は博物館の伝統となっています。
モルドバ国立歴史博物館
1983年に設立されたモルドバ国立歴史博物館は、その所蔵品と科学的価値の面から国の最も重要な博物館機関の1つです。博物館の庭には、ローマ時代のオオカミを模したカピトリーノウルフ像を設置。館内には現在34万8,619点の遺産が収蔵され、先史時代から現在まで何世紀にもわたるモルドバの歴史を伝えています。
館内には12の展示室があり、旧石器時代から始まってローマ時代や中世を代表する遺産で構成する「考古学的コレクション」、楽器や家具、地図などの文化的・歴史的な展示物を時系列で配置した「歴史コレクション」、あらゆる種類の武器を集めた「武器や防具のコレクション」、古代ローマ時代から現代までの国内・海外の硬貨や紙幣、金券、メダル、勲章などがそろう「貨幣コレクション」、宗教書や典礼書、神学・教会史も含む「蔵書コレクション」など、歴史的価値が高い遺産を常設展示しています。
8年間かけて作成された長さ45メートル×11メートル、面積800平方メートルの常設ジオラマも、大人気の見どころスペース。キャンバスには1944年に行われたプルット川沿いの戦いが描かれ、対戦車砲や砲弾が入った木箱、弾薬など、本物のオブジェクトで構成されています。
博物館では毎年およそ15回の展覧会が開かれ、近年では戦争を振り返り平和を願うさまざまなチャリティー絵画展を開催。これまでに延べ650以上の特別展覧会を催し、独自の収蔵品展示だけでなく他の文化研究機関との協力にも注力しています。
モルドバ国立美術館
1939年設立のモルドバ国立美術館は、安藤広重や葛飾北斎などの浮世絵も含め国内外の3万9,000点以上の美術品を所蔵するモルドバ最大の美術館です。モルドバ国内の美術教育や文化振興に大きな役割を果たしています。
彫刻や装飾芸術など紀元前の古代美術品から始まり、古い本や織物、伝統的衣装など中世後期の民族芸術品や、絵画やグラフィックス、彫刻など現代も含むモルドバの芸術作品を展示。ロシアや西ヨーロッパの絵画・芸術品や、日本、中国、チベットなど東洋の絵画や美術品も豊富にそろえています。
館内は地下スペースから屋根裏スペースまでの4フロアで構成されていて、地下から2階は常設展となり、屋根裏では現代美術などの特別展を開催。地下には彫刻と陶器やガラスなどの現代装飾品が常設展示され、2階にはヨーロッパを中心に16世紀から20世紀初頭までの作品を含むギャラリーがあります。
また、国際博物館の日や冬休み、イースター休暇には、テーマ別に子ども向けのクリエイティブワークショップが開かれます。スタッフのサポートを受けながらモデリングやドローイング、コラージュなどの技術を使って「芸術作品」を作るなど、子どもたちは創造性を存分に発揮することができます。これらの作品はその後、博物館内で開かれる「子どもの美術展」で展示されます。
老朽化などに伴いスムーズな維持が厳しくなった同美術館が協力を要請してきたため、2018年に日本政府は視聴覚・展示機材の購入に向けて一般文化無償資金協力を行っています。
モルドバ国立美術館公式サイトより引用
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