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モルドバ人歌手のビオリカさんが語る「アーティスト」としての生き方

和楽器とのコラボやウクライナ語での作詞も

5歳からモルドバでクラッシックボーカルを学び、国営テレビなどでソリストとして活躍後、母国の音楽大学や音楽芸術大学で指揮やジャズも学んだ歌手のビオリカ・ロゾブさん。22年前に来日し、現在日本のステージやコンサートで活躍しています。尺八など和楽器とのコラボで民族音楽にも力を入れるほか、平和を願って自らウクライナ語で作詞した歌を披露するなど、存在感あるアーティストとして幅広く活動。「歌うことは生き方そのもの」と語るビオリカさんに、仕事やモルドバについてお話を聞きました。

尺八の演奏家とモルドバの民族音楽をレコーディング中のビオリカさん

Q:歌手になるまでの経歴と日本に来たきっかけを教えてください。

まずは5歳からモルドバでクラシックボーカルを学び、国営テレビの聖歌隊で15年間ソリストとして活動したのをはじめ、音楽番組への出演などで歌手としての実績を重ねました。地元の音楽大学でクラシックボーカルと合唱団の指揮テクニックを学び、さらにその後音楽芸術学校でジャズボーカルを学びながらさまざまなコンテストに参加していました。

日本に初めて来たのは22年前のことです。高校3年生の時、長崎のハウステンボスでリードシンガーとして歌う仕事のオーディションに合格し、1年間の契約で日本に滞在しました。その後モルドバに戻り音楽大学などに進みましたが、また日本での仕事が入ったため再来日し、以来ずっと横浜に在住して歌手として活動しています。

Q:YouTubeやSNSなどでも、ビオリカさんのコンサートやイベントでのさまざまなご活躍ぶりがアップされています。現在のお仕事について聞かせてください。

そういった動画はファンや知り合いの人がアップしてくれているもので、ずいぶんたくさんあります。自分自身のサイトはまだ開設していないのですが、来年春頃までには立ち上げたいと思っています。ただ、やはり運営が大変なので、誰かサポートしてくれる人や準備が必要になってくるでしょう。

今はモルドバやハウステンボスで培ったスキルを活かし、都内を中心にコンサートやイベントでジャズ、クラシック、ボサノバ、ポップスなどを歌っています。子どもの頃からずっとクラッシックを学び、オーケストラと一緒に歌ったりしました。そのあとは、ジャズやボサノバなどを自分なりに学びました。今、日本で歌っているのはジャズが多いけれど、スタンダードだけでなく、ヨーロッパジャズやジプシージャズなど、歌う場所によってアレンジしながら歌っています。

ジャンルにこだわらずよい曲ならどんなものでも歌うので、一番尊敬している美空ひばりさんの曲など、日本の演歌もよく歌います。

日本の和楽器とのコラボも多く、奏者の人たちと一緒にコンサートやイベントも行います。中でも世界的に著名な尺八奏者の中村明一さんとは懇意で、彼がプロデュースする邦楽コンサートにゲスト出演したり、一緒にミュージックビデオを撮ったりしています。

日本のあちこちのコンサートなどにゲスト出演しますが、つい最近も仙台のライブショーに出演。実際に走っている電車一両を会場として設定したコンサートで、コロナで2年間開催できなかったこともあってとても盛り上がりました。

Q:歌詞は13ヶ国語をカバーできるそうですが?

はい、歌は13か国語をカバーして歌えます。ボサノバだったらポルトガル語かスペイン語で、ジャズなら英語で、演歌なら日本語でというように、その国の歌はできるだけその国の言葉で歌ったほうが伝わると思っているので。2~3回聴けば覚えられるから、耳がよいのかもしれませんね(笑)。語学はそこまではいきませんが、普段はルーマニア語を使い、ほかに英語、フランス語、ロシア語、日本語が不自由なく話せます。

先日もウクライナの状況を憂い平和を願って、既存の曲に自分でウクライナ語の新しい歌詞をつけた歌を尺八奏者の中村さんと一緒にレコーディングしました。日本在住のウクライナ人アーティストたちはウクライナの現状にみな心を痛めていて、私も何かできないかという気持ちで一杯だったからです。

寄付などとはまた別な形で、応援しているという気持ちをアーティストとして表現したいと考え、ウクライナ語の歌詞で歌うというプロジェクトを展開しています。これからSNSやYouTubeにアップし、機会があればコンサートやイベントでも歌っていきたいと思います。

Q:モルドバ大使館が作成したプロモーションビデオでも、東欧の伝統的木管楽器・パンフルートの演奏者と一緒にビオリカさんが歩きながら歌う場面がありました。

あの歌は、8月15日の「マリア様の日(聖母被昇天祭)」にみんなで歌うルーマニアのお祈りの曲です。マリア様は海で働く人などを守るとされているので、その祈りを込めた歌。ルーマニアやモルドバでは伝統衣装を着てミサを行い、クリスマスと同じくらい大事な日とされています。

大使館のビデオには、同じモルドバ出身の画家のステラさんが描いたマリア様の絵も映っていて、さらにカメラを回している映像クリエーターのイリーナさんもモルドバ人です。このように、モルドバ女性の力を合わせたビデオも作成しているのです。

昨年12月には大使館でモルドバ人の集まりが開かれましたが、その時のワークショップでみんなが作り、歌う時に手に持っていたのが白いリンゴの花。モルドバのお正月はリンゴやサクランボの花が咲く春で、「年が明けたら花が咲く、よい年になるように」と言って収穫のシンボルである麦の実を捲いてお祝いします。缶を糸で引いて「モーモー」という子牛の声を表す音を出すのも、200年前からの伝統的な行事です。

大使館では年間を通じてモルドバ人を集めたさまざまな行事が行われていて、時間がある時は私も参加しています。私は歌手ですが家族にもアーティトが多く、日本のモルドバ大使館には画家である私の叔父が描いた絵も飾られています。

Q:この2年半の間、お仕事にコロナの影響はありましたか?

コロナが広がってからは、自分をはじめアーティストはみんな大変でした。私は毎年2回ほど京都の老舗ジャズクラブに2週間~1か月の間ゲスト出演していて、コロナが始まった時はちょうど京都に滞在中。クラブに来てくれるお客様が次第に少なくなり、お店もオープンできないような状態になったのですが、その時は2~3カ月程度で収束するだろうと思っていました。

ところが、毎年ほぼ埋まっている年間スケジュールもすべて消えてしまい、どうしたらいいのかと。歌手ではなく何かほかのことをやればいいのではと言われても、そうはいきません。私にとって歌手というのは仕事ではなく「生き方そのもの」で、歌わずにはいられない。声は筋肉なのでコンディションをキープしなければならず、何カ月も歌っていないとダメになってしまうのです。

そのような時、友人から有料配信サイトのことを聞いてやってみようと思い、2020年9月から配信を始めました。防音の音楽スタジオを自分で借りプロに機材を用意してもらって配信するもので、それなりに手間やお金はかかりますが、「良い音」を届けるにはそういった環境が必要です。

2年間配信を続けたおかげでファンもたくさんついたうえ、障害がある人やお年寄りなど、ライブに行くことが難しい人たちも聴いてくれるようになりました。今も続けていますが、コロナだったからこそそのような形で自分の歌を届けられたわけで、とても有難い体験だったと思っています。

Q:これからやってみたいことは?

まず、自分のサイトを作ることです。また、コロナの影響がありプランを作るのは少し怖いけれど、撮影していたミュージックビデオが出来上がったらコンサートも開催したい。尺八の中村さんたちと、琴や太鼓など日本の民族楽器とコラボしたイベントもやっていきたいと思っています。

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